結婚6年目。夫・直樹の帰りはいつも遅く、会話らしい会話も、もう随分なくなっていた。そんな私の前に現れたのが、夫の部下だという橋本拓海。書類を届けに来るだけのはずが、彼の何気ない気遣いに、夫からは久しく感じていない温かさを覚えてしまう。雨に濡れて訪ねてきた夜、二人きりの沈黙。触れる寸前で止まった距離。「奥様のこと、上司の奥さんとしてじゃなく、一人の人として見てしまってる自分に気づいて」そう告げられた瞬間から、私はもう、後戻りできない場所に足を踏み入れていた。夫が三日間家を空ける夜――その夜、私は拓海を家に招いた。夫の気配が残るこの部屋で、夫ではない誰かに抱かれる背徳感。それでも、この温もりを手放すことはもうできない。「後戻りできなくなりますよ、これで」「知ってます。それでも、いいんです」夫の帰る家で、私は今日も、誰にも言えない秘密を抱えたまま生きている――。

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